賠償予定の禁止

使用者は、労働者との間で、違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をすることが禁止されています。

労働基準法第16条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

具体的には、飲食店を営む会社が、そこで働く従業員との間で、「かぜで店を休んだら罰金5万円」と定めたり、「皿を割ったら1000円支払う」と約束させることは許されないでしょう。

給料天引きの禁止

また、損害を給料から天引きすることも認められません。

たとえば、給料が20万円の従業員が過失により店の備品を損傷し、修理費として3万円を要した場合、使用者が給料から3万円を天引きして、給料を17万円にすることは、認められないでしょう。

労働基準法第24条本文 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

事後的な損害賠償請求と責任制限法理

事後的に、会社から従業金に損害賠償請求をすることまでは禁止されていません。あらかじめ定めてはならず、給料から天引きしてもいけないというわけです。
ただ、事後的に従業員に対する損害賠償請求をしても、信義則上相当と認められる限度に制限されることになります。責任制限の法理といわれています。

最高裁判所が平成51年7月8日に出した判決では、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」とされています。

具体的には、使用者にも管理上の落ち度がある場合などは、従業員の過失が軽ければ請求が認められないケースや、従業員の過失が重くても半分にも満たない額しか認められないケースもあるでしょう。

このように、使用者は、従業員の過失で損害を被るとしても、事前に損害額を決めておくことはできませんし、事後的に請求しても、請求が認められなかったり、制限されたりする場合があるのです。